遠い景色
秋風が吹くこの季節。
この並木道はいつもと変わらずここにある。
でも……。
今、目の前に映る景色は今日でなくなってしまう。
「あと1時間くらいか……。この景色が俺を育ててくれたのにな」
何でも地域の開発と言う名目で、ここら一体にマンションを建てるとか。
ファッションセンターとかも……。
商店街の方はさびれてしまったと、仲間が言っていた。
「もっと良い方法はなかったのだろうか? 悲しいじゃないか」
ここには、沢山のかけがえの無い大切な景色があった。
仲むつまじい親子。
これからの将来を考える若い学生達。
夕方にここからの景色を見に来るおじいさん。
まだまだいっぱいある……全部なんてとても……。
全てを言葉にできないぐらいに色々なことがあった場所。
なくなるのは一瞬で……でも決して元には戻せないもの。
そういうことを考えて欲しい。
「あっ。そろそろ時間か……」
ここから、行かなくてはならない。
最後に、この場所とこの景色にお別れを。
「ありがとう」
・
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・
「じゃあこの木切っといて!」
遠くで響く音を聞きながら。
俺は無くなってしまうものを思う。
了
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