Cherry blossoms of blood


「ねぇレミィ?」
 パチュリーは読んでいた本を置いて、目の前で紅茶を飲んでいる吸血鬼に声をかけた。
「どうしたのかしらパチェ?」
「少し気になった事があるのだけど、聞いてもいいかしら?」
「我が家の魔女が私に聞きたいことね……構わないわよ?」
 口に運んでいたティーカップを、テーブルの上に置きパチュリーを見つめるレミリア。
 その眼は「退屈しないのならね」と語っていた。
「そんなに面白い事を聞くつもりはないけど?」
「それは私が決める事だパチェ」
「……気になったのは、貴方達吸血鬼がどうして薔薇を血の変わりに食すかという事」
「血に最も近い……血のイメージだから食す。しかし所詮は代用品でしか無いし長くはもたないのよね」
 レミリアはテーブルの上に置いたティーカップを持ち上げ、パチュリーに中身を見せた。
「この紅茶の中には数滴だけど人間の血が混ざってるわ」
「結局の所、人間の血でないと欲求を満たす事は出来ないって事で良いのかしら?」
「まぁそういう事になるわね」
「では血のイメージでは無くて、本当に人間の血を吸って成長した薔薇とかならどう?」
「……試した事がないわけではないが、美味しいかといえば私は微妙だった」
 ティーカップを再びテーブルに置き、パチュリーの方へ歩き出すレミリア。
 パチュリーの肩に手を置き、日に当たらな過ぎて白くなっている首筋へと口を持っていく。
「まだ、魔女の血は試した事が無かった気がするな」
「私達が始めてあった頃に試してるわよ」
「そうだったかな?」
「そうよ。話を進めるけど、美味しくなかったけどただの薔薇よりはもつのかしら?」
「んー正直言うともつにはもつ。ストレス溜まるから我慢出来なくなると、いつも以上に……飲んでしまうけどね」
 パチュリーの白い首筋にレミリアが食らいつこうとする。だがパチュリーは、ゆっくりとレミリアの体を前に押して、問答無用でレミリアの口の中に自分の人差し指を突っ込んだ。
「悪いけど今日はこっちで我慢しなさいな」
 突っ込んだ指先からカリッと音がする。レミリアの細い喉がこくんこくんと音を鳴らしながらパチュリーの血を吸う。


 そんな二人のやり取りを一部始終、扉の隙間から見ていたメイドが居た。
 銀髪のショートカットをしたメイドは、何故か一升瓶とお猪口をお盆に載せた状態で持っていた。
「……非常に入りづらい状況ですね」
「どうしたんですか咲夜さん?」
 咲夜が後ろを振り向くと、紅魔館の門番である紅美鈴が居た。
「えぇ、パチュリー様に頼まれたものを持ってきたのだけど」
「それなら、早く部屋に入りましょうよ」
「あっ」
 咲夜の制止も間に合わず、美鈴は部屋の扉を開けてしまった。
「パチュリー様。咲夜さんが頼まれ物を持ってきたそうで……」
 部屋を開けて、パチュリーとレミリアの姿を確認した美鈴は硬直してしまった。そんな溜息をついてから、彼女を肘で端にずらして、咲夜が部屋に入って行く。
「パチュリー様。頼まれていた物をお持ちしました」
 淡々と持ってきた物をテーブルに並べる。その間、美鈴は硬直していたが、咲夜が並べ終えた辺りで我に返り赤面しながら二人に切り出した。
「お二人はそんな関係なんですか!?」
「さっきの話からして出会った頃からよねレミィ?」
「あぁそうだな私達は出会った頃からこんな感じだ」
「肯定なさった!!」
 何か奇声をあげながら回りだす美鈴を無視して、レミリアの口から人差し指を抜いてパチュリーは話し始めた。
「レミィ。今回、私があなたにさっき聞いた事と別に実験したいのよ」
「ほう実験ねぇ……どんな実験なのかしら?」
「幽冥楼閣の亡霊姫の庭に生えていた、桜の花があなたの口に合うかの実験」
 するとパチュリーは咲夜が用意した一升瓶を持ちお猪口に注いでいく。注がれた液体からは、少しのアルコールの匂いと桜の香りがした。
「ようするに、その酒を飲めって事で良いのかしら?」
「そうなんだけど、その前に私の話を聞いて貰えるかしら?」
「構わないが、簡潔に纏めてくれ酒の風味が落ちてしまう」
 レミリアの目線は注がれた酒に集中していた。
「それでは短く説明するわ。先程言った血を吸った薔薇の話は覚えてるわよね?」
「そりゃ鳥頭じゃないからな覚えているよ」
「桜の木の下には死体が埋まっている」
「ほぅ。ならばあの姫様の周りは死体だらけだな」
「それが迷信かどうか知りたくなって、あなたで実験しようという事」
 今度はレミリアが一升瓶を持って、パチュリーの前に置いてあったお猪口に酒を注ぐ。
「という事はこれは香りで分かってはいたが、桜の酒という事だな」
「えぇ。これがあなたにとって血の代わりになるのなら……あながち迷信では無いという事よ」
「それでは早速飲ませてもらうわパチェ」
 レミリアはお猪口をテーブルから取って口をパチュリーに向ける。
 パチュリーもレミリアにお猪口の口を向ける。
「「乾杯」」
 二つのお猪口が鳴り、同時に口に運んでいく。
「それでどう?」
「……この酒自体が美味いから分からないな」
 口に笑みを湛えてレミリアは言った。それを無言でパチュリーは見つめた。
「分かったそんなに怒るな。これは十分代わりになるんじゃないか」
「全部が全部死体が埋まってる事は無いと思うけど……これは当たりだったみたいね」
「どうやらそのようだ」
「もしかしたら桜の木が生えていた場所にも、吸血鬼は居たのかも知れないわよレミィ」
「それは面白い見解だな」
「次の考察はそれにしようかしら……」


 一升瓶に入っていた桜の酒は一時間足らずで空になってしまった。
 咲夜は片付けに部屋を出て、美鈴は終始変な事を呟いていたが自分の部屋に帰っていった。部屋に残ったのは、初めと同じレミリアとパチュリーだけ。
「あぁそうそうパチェ」
「どうしたのレミィ」
「さっきの酒は代わりにはなるかも知れんが……」
「えぇ」

「パチェの血の方が断然美味いぞ?」



 了


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