和菓子
ある昼下がりの幻想郷。
博麗神社の境内で博麗霊夢は箒を使って掃除していた。
「~♪」
今日は日差しも心地良く、霊夢の機嫌も上機嫌。
そんな中、ふいに見上げた空。
遠くから博麗神社に近づいてくる影があった。
その影はどんどん加速して神社の境内に着地した。
着地の際の突風の如き風が、霊夢の集めた木の葉を散らしていく。
「…………」
「よぉ霊夢久しぶりだぜ」
霊夢が箒を手から落とすのと着地した奴が声をかけるのは、ほぼ同時だった。
着地した奴に目を向ける。
黒のとんがり帽子に金髪のウェーブが良く映える。
乗ってきた箒を片手に持つ霧雨魔理沙だった。
「霊夢。人が挨拶したら挨拶し返すのが礼儀だ……うぁ!!」
魔理沙の言葉は、獣のような俊敏さで飛び掛って来た霊夢に消されていった。
「すまん霊夢。悪かった」
両手を合わせて謝る魔理沙。
それを少し冷たい目で見た後、ため息を吐き霊夢は傍らに置いといたお盆からお茶を魔理沙に渡した。
「次からはもう少し気をつけなさいよ」
「あぁ次から気をつけるぜ」
そして二人で神社の縁側でお茶を飲むのだった。
「そういえば」
「どうしたの魔理沙?」
湯のみを置いた魔理沙は自分の服に手を入れて何やら探し始める。
「これこれ。今日はこれを一緒に食べようと思って来たんだぜ」
魔理沙の手にあるのは包み紙。
中身を開けるとそこにあったのは、桜餅と団子がそれぞれ二つずつ。
「もう桜餅が売り出される季節なのね」
そう言うと霊夢は魔理沙の湯のみにお茶を注ぐ。
「店先に貼ってあった桜餅の紙見たらつい買っちゃたぜ」
「その気持ち分からなくもないわね」
二人で桜餅を手に取り、もぐもぐと食べる。
桜餅は桜の味が強すぎず、餡子も控えめで上品な味わいだった。
「そして最後は餡団子で締めるのが私流」
「この前はみたらし団子だった気もするけど?」
「前は前、今は今だぜ」
「まぁ良いけど」
「それにここの餡団子は、餡子で団子を挟む構造になってるから結構お得なんだ」
団子の上だけでは無く下にも餡を敷く団子がここの売りだ。
「確かにお得感はあるわね」
そして魔理沙が団子を手に取った時。
「あ――――――!!」
「あら」
悲劇は起こった。
団子は二本あり、上に重なるように入れてあった。
その為魔理沙が取った上の団子の下に敷いてあった餡子が、下の団子の上の餡子とくっ付いて離れてしまった。
分かりやすく言うなら、魔理沙が取った団子には餡子が半分。
残った団子には一本半の餡子が付いていた。
「……霊夢。餡子取って良い?」
「好きにしなさいよ」
器用に魔理沙は餡子を取ろうとするが、二つの餡子は絶妙にくっ付き合い全部取れてしまう。
餡子を一度戻す。
「……霊夢」
魔理沙が縋る様な目で霊夢を見つめる。
そんな魔理沙の顔を見て一息吐いた後、霊夢はにっこり笑顔を魔理沙に向けた。
霊夢の笑顔に危険を感じた魔理沙はもう一つの団子に手を伸ばす。
しかし、その手より早く霊夢の手が団子に伸びて、そのまま霊夢の口に消えた。
「あ――――私の餡子ぉ……」
もぐもぐして団子を飲み込んだ後、霊夢はにやりと笑顔で言うのだった。
「さっきの仕返しよ」
「なっ! さっきのは許すって……」
「次から気をつけてとは言ったけど許すとは一言も言ってないわよ?」
こうして一本半分の餡子を取られた魔理沙は、遠い目をした後、自分の分の団子をまじまじと見て口に運んだのだった。
了
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