カレカノ 【1話】


「いやっほー!」
 突然彼の部屋の扉が開かれ、勢い良く彼女が飛び出してきた。
「あー?」
 声の方に振り向こうとした彼は、首が動かない事に気づく。どんなに声の方を向こうと力を入れても動かない。
「今は……こっち向いて欲しくないなー」
 きっちりと彼の首を両手で固定しながら、猫撫で声で言う彼女の吐息が耳元にかかる。
「お前なにやってんの……」
 恥ずかしさと少しのドキドキ感を味わいながら答えた彼だったが、彼女の吐息から香る匂いに疑問が生まれた。
「もしかして……酔っ払ってる?」
「えへへーぴんぽーん」
「アルコール臭い」
「……いや?」
 少し泣きそうな声でこっちを伺う彼女。少し傷ついてるみたいだと彼は思った。
「いやではないが……俺は素面だからノリについていけないぞ?」
「んーそれはそれでいいやー。それでなにやってたのー?」
 彼は目の前のパソコンの画面を指差した。
 目の前の画面に映っているのは芸能関連の記事だった。
「あれれー? あんたが、げいのうのきじなんかみるのはじめてみたー」
「あーお前が居る時はこうゆう芸能とか真面目な記事読んでないからな、お前をつまらなくさせるのもなんだし」
「えへへー。わたしのことかんがえてくれてるんだー」
 ……そりゃそうだろ。
 気恥ずかしさを隠すためにクリックしていく。
「いんたーねっとってなんでもみれるよねー」
「まぁ今の時代なんでも見れるな」
「えろさいともー?」
「ぶーーーーーー!!!!」
 唐突に言われた一言で画面に噴出す。急いでティッシュを取り、画面を吹く。
「いきなり何言ってんだー!」
「うわーてぃっしゅとかえろーい」
「お前の頭の中のほうがエロいわ!!」
「えへへー」
 彼女は、彼の首をがっちりと固めていた両手を外して逆に自分の方を向かせる。
「ちょ……お前……」
「いんたーねっとなんかよりもわたしをみてよー」
 彼女の唇がどんどん近づいてくる。
 5センチ。
 3センチ。
 1センチ……。




 ガツンッ!!


 小気味良いヘッドバッドが彼の額を捕らえた。
「うおーーーーーー!! いてええええええ!!!!」
「ハハハハハ!! 引っかかってやんのー!!」
 床にのた打ち回る彼を、指差しながら高笑いする彼女。先程までのうっとりとした酔っ払いの影なんかどこにも無い。
「お前……わざとかよ!! 人からかって面白いか!?」
「面白いね」
 きっぱりと一言で断言しやがった……!?
 ベットの上に足を組んで座る彼女。
「第一に私がお酒でも飲んできたと思ったの?」
「そりゃ……吐息がアルコールの匂いがしたから」
 すると彼女はポケットを漁りだし、中から人差し指ぐらいの小瓶を取り出し彼に渡す。
 蓋を開けると、ふぁっとアルコールの匂いが部屋を満たした。
「ただ単にネタで唇に塗っただけよ」
「……」
 あきれて物も言えない彼に、彼女はいじわるな笑顔のまま更に答える。
「でもさ……」
「あー?」
「少しはドキドキしたんじゃないのあんた?」
 ……この女は……。


 ひとしきり彼に罵倒を浴びせて、彼女は彼の部屋を出て行った。
 後に残された彼は一人思う。
 酔っ払って無くても酔っ払ってても、お前と一緒なら俺はドキドキしてるんだよ……。


 了


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