カレカノ 【2話】


 ピンポーン。彼の家のインターホンが鳴った。
「ねぇ誰か来たみたいよ?」
 彼女は読んでいた本を脇に置いて、彼に来訪者が来た事を教えるが、彼はゲームに夢中になっていて気づかない。
「ねぇ……」
「あー悪い。今良い所だから代わりに出てくれないか?」
 画面を見るとゲームのムービーが流れていて、曲も相応に熱い。
 彼女は溜息をつきながらも、インターホンに出る為に部屋を出た。
 彼の部屋は二階にあるので、一度階段を下りなくてはならない。
「まったく……何で私が」
 文句を言いながらも、一階の部屋のインターホンの受話器を取る。
「はい」
「あ、宅配便です」
 宅配便か……印鑑とか必要なのかな?
 辺りを見回すが印鑑は見当たらない。
 悩んだ彼女は、これ以上宅配便を待たせるのも気が引けたので先に出る事にした。
 玄関の扉を開けると宅配便のお兄さんが、笑顔で宅配物を渡してきた。
「えーっと代引きなんで、○○円お願いします!」
「えっ」
 代引きって、私が払うのよね。
 ちっと舌打ち。
 お兄さんの顔が一瞬怯えたように見えたが、彼女は気のせいだと思う事にした。
 財布を取り出してお金を払う。
「こちらにサインをお願いします!」
 良かった二階に行く手間が省けたわ。
 お兄さんからペンを受け取って、サラサラと彼の苗字を書いた。
「ありがとうございました~!」
 先程と同様に笑顔でお兄さんは去っていった。
 受け取った荷物を見回してみる彼女。
 箱の大きさは、大体両手を使う位の大きさ。重さは本数冊分ぐらいの重さだった。
 何よコレ?
 首を傾げながら二階の彼の部屋へ戻っていった。


 彼の部屋へ帰ると、ちょうどゲームのムービーが終わった所だった。
「サンキュー」
「まぁ別に良いけど……これ何?」
 彼に荷物を渡しながら尋ねる彼女。
「あぁこれな研磨機」
「研磨機? っていうと宝石とか削る研磨機?」
「大体あってるけど、それは実用性がないって。俺が買ったのは古本屋とかで本を削る研磨機。それもハンディタイプ」
 箱から研磨機を取り出して彼女に見せてくる彼。
「最近、通販で見つけてさつい買ってしまった」
「ふーん」
 大して興味が湧かなかったので、相槌を打って本題に彼女は入った。
「研磨機はどうでもいいけど、代引きでお金払ったんだけど」
「サンキュー。んじゃツケといて」
 彼女は、無言で彼の襟首を掴みあげた。
「待て……冗談だ」
「言って良い冗談と悪い冗談ってあるわよね?」
「本当にすみませんでした」
「よろしい」
 ゆっくりといたぶる様に、彼女は彼の襟首を掴んでいた手を離した。
 直ぐに財布を取り出して、料金分お金を返す。しかし、残り一円だけ見つからない。
「ごめん一円だけ足りない」
「はぁ? ちょっと貸してみなさいよ」
 彼から財布を引ったくり、小銭入れを漁るが一円玉は見当たらない。
「今度返すからさ……駄目か?」
「……まぁいいけど。じゃあ明日取りに来るから」
「はえー!」
「一円玉……用意出来ないの?」
 笑顔で放たれた言葉。しかし、物凄い重圧を彼は感じた。
「用意させて頂きます」
「まぁ、今日中にコンビニで買い物して作ることね」


 ハンド研磨機を手にとって、彼女はじっくり観察した。
「それはそうと、これって本当に使えるの?」
「んーじゃあ、一階に日に焼けた本があるからそれで試してみるか」
 二人は一階に向かう為に部屋を出た。
 階段を下りながら研磨機について話し合う。
「それにしても……こんなの欲しかったの?」
「んー正直微妙。あの時は欲しいと思ったんだが実際はそうでもないな」
「だよねぇ。これで大して使い物にならなかっ、」
 突然、彼女の体が斜めに傾いだ。
 彼の目の前で彼女がゆっくりと遠くなっていく。
「おい!」
 宙に浮いた彼女の手を引っ張って胸の中に抱きかかえる彼。
「っ!!」
 そのまま二人は階段を激しい音をたてながら滑って行った。
「……大丈夫か?」
 彼が優しい声で彼女に尋ねる。
 腕の中の彼女が、目を開けて彼の顔を見上げる。
「……うん大丈夫。……ってあんたの方が大丈夫なの!?」
「あぁ大丈夫」
「嘘!!」
 彼から身を離して背中に回る彼女。
 彼の服を上に捲くると彼女は絶句した。彼の背中にはいくつかの大き目の青痣が出来ていて、内出血もしていた。
「これぐらい大丈夫だって」
「動かないで! 今、氷持ってくるから!!」
 彼女はダイニングへと駆けて行った。
 直ぐに戻ってきた彼女は、ビニール袋に氷を入れてタオルで巻いた物を持ってきて、彼の背中に押し当てた。
「ぐっ!」
「ごめん! 痛かった……?」
「いや……大丈夫。それより……お前が怪我しなくて良かった」
「なっ!」
 急に言葉を詰まらせて彼女は黙ってしまった。
 怒らせてしまったと思い彼は彼女に謝ろうとするが、彼よりも先に彼女が声を出す。そっぽを向きながら、しかし少し頬が朱色に染まっているようにも見えなくない顔で。
「もう……何でいちいちタイミングだけは外さないのよあんたは」
 溜息と共に告げられた彼女の言葉に彼は即答した。
「そりゃお前……彼氏だからな」
「……ばか」
 それから彼は黙って、彼女の髪を優しく撫でた。


 了


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